種子島、屋久島への旅行はかねてからの懸案事項の一つであった。夏は天候が安定している。離島に渡るには良い季節であるが、南の島であるため台風の影響が大きい。さらに今回は屋久、種子と周遊するコースゆえ、旅程をこなせるか否かは天候に追うところが大きい。はたして台風10号、11号と相次いで接近するなかの出発となった。
前日に中部国際に前泊。早朝の第一便で空路鹿児島へ。ここでトランジット。屋久島まではターボプロップ機(DASH8-Q400)。搭乗機まで徒歩でアクセス。記念写真取る人多数。70数人乗りの割には小振りな機材だが、ダッシュ8の名の通り加速良く滑走路を疾駆し軽々と大空に舞い上がった。屋久島に着いたのが11時半過ぎ。いやなんともあっけなく到着してしまった。
初日は島内一周の予定だ。車を借りて北に向かう。10分ほどで島内最大の集落宮之浦を通過。さらに北へ向かった。すれ違うクルマはほとんどレンタカーだ。ほどなく永田いなか浜に到着。この島には浜が少ない。海岸の多くは磯になっているからだ。ここは広い砂浜と青い海が広がる気持ちの良い海岸だった。それにしてもヒトがいないよ。
食事を執る場所を探しながら、結局西部林道に入ってしまった。この先は集落もなく人も住まないエリアが続く。鬱蒼と樹木が茂り南の島の樹林を思わせる。道路沿いも世界自然遺産に認定されたエリアだ。断崖の道をしばらく進むと屋久島灯台に向かう道が現れる。末端探求症のわれらは迷わず岬への道を入っていく。屋久島灯台は断崖の上にすくっと立っていた。官舎もあったがもちろん無人だ。見下ろす海の青さばかりが印象に残った。
西部林道をさらに南下。鹿やサルに頻繁に遭遇する。互いに干渉しないことが一番だ。やがて集落が現れ、栗生(くりお)に到着する。ここで水中観察船に乗ることにする。まんぼうII号というらしい。乗り込むと船底中央部がアクリルかなんかの透明な素材で作られた船で、そのまわりを取り囲むように席が設けてある。スタッフは操舵役、監視役、案内説明役の3人に対してお客は4人だけだ。この日は台風の影響でうねりが大きく午前中の2便は欠航したとの由。陸から見る限りではそう波が高そうには見えなかったが、港の突堤を出た途端にどんぶらこと揺れ始めた。アクリル板を通して海の底を見るわけで、そこには珊瑚礁とか熱帯性の魚とか亀とかが泳いでいるわけだが、ずっと下を向いているは結構辛いものがある。われわれ2人は船に酔いやすい質だから、15分も揺られているとちょっと厳しい状況になってくる。他の二人の客は案内役のスタッフと呑気に話し込んでいる。操舵手のおじさんにも『大丈夫?(船に)弱いひとはこのぐらい揺れるとダメなんだよね〜。』とか『俺らでもね〜、でかい船は酔っちゃうんだよね。揺れ方が違うんだよなぁ。』とかこれまた呑気。船首を風に立てたときが一番揺れたような気がする。それでもリバースする前に船は港に戻ってきた。
栗生を後にクルマは次第に東を向くようになる。やがて再び東海岸に戻ってくる。千尋(せんぴろ)の滝への入り口が分からず、ずーっと行き過ぎ、安房(あんぼう)の手前まで来てしまった。せっかくだからと屋久杉自然館へ向かう。途中のドライブイン?縄文に立ち寄る。何となく食事をすることになって、屋久島そばとやらを食した。鯖節で出汁をとってあるとかで、甘みとコクのある味だった。全く醤油の色がついていないつゆはビジュアル的にも新鮮。そして鹿児島名物しろくま。フルーツを満載したかき氷なんだがボリューム満点。一人で食べるのは大変だと思うよ。
屋久杉自然館は屋久島の自然と人々の生活を勉強する上ではとても参考になる施設だ。ただ、多くが過去の話である点がちょっと残念。小学生が調べた屋久島の自然や生活に関する展示は面白かった。過去のTVドキュメンタリーの上映も興味深かった。
この日の最後に千尋の滝へ行った。滝は一枚岩と思われる大きな岩が右岸から滝本体、そして左岸まで続いている。水量も多くなかなかの迫力だ。滝の後はホテルへ。今宵の宿舎は屋久島いわさきホテル。国道から長いアプローチを通って駐車場へ。周囲はすべてホテルの敷地で広い庭になっている。遊歩道が巡らしてあってちょっとした散歩も出来る。ホテルの背後にはモッチョム岳が聳え立っている。ロビーは最上階までの吹き抜け。小ぎれいなホテルだ。部屋も広くてバルコニー付だ。大浴場(温泉)もある。ホテルと旅館を折衷したような様式で、大浴場に行くのに部屋に備え付けのアロハシャツやムームーを使ってもいい。スリッパも可。だが、レストランには前述のいでたちでは不可だ。食事も和洋折衷の料理だ。
2日目。この日は白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)に行った。台風が接近中で天候に不安がある。そのためもあってちゃんとした登山用の装備を持って入山口となる白谷広場に向かった。ホテルのある尾之間(おのあいだ)地区から宮之浦までが50分ほど。さらに山道を車で上がること20分。土砂降りの雨の中白谷広場の駐車場に着いた。あまりの雨の勢いにホテルで用意して貰ったお弁当とカメラはクルマに置いていった。
登山口で管理料を払って入山。のっけから階段の道。良く整備されているが歩き始めの階段はちょっときつい。5分ほど沢沿い(左岸)を登ると吊り橋が現れるのでこれを渡って右岸に。ここからはしばらく急登が続いて一気に高度を稼ぐ。沢の音が遠くなり樹林の中を歩くようになる。足元は全くの登山道。雨が多いことを考えるとそれなりの装備は必要かと思う。事実、歩いている人の多くはきちんと登山用のウェアを身につけ、登山用のザックを背負っている。驚くべきことは、多くの人がガイドを雇って歩いていることだ。わたしたちのようにノーガイドでガシガシ歩く者など少数派だ。登るにつれて森の緑が濃くなっていくような気がする。約1時間ほどで奉行杉、三本足杉、二代大杉への道を分け、もうひと登りで白谷小屋に到着する。この小屋より上が"もののけの森"だ。鬱蒼とした森は地面からから樹木のてっぺんまで緑一色だ。大きな杉の木立は何かが宿っているような気がする。というより、森全体に人智を越えた何ものかがいるような気がして、森の精っているのかも?と思わせるものがあった。小屋から10分ほど上がったところで引き返すことにした。雨も上がってきた。ちゃんとしたカメラを持ってこなかったことを悔やんだ。
分岐まで降りて、沢の左岸を奉行杉、三本足杉、二代大杉と巡るコースに入った。4度ほど沢を渡るが降雨による沢の増水もたいしたことは無かろうと判断した。意外にアップダウンが激しかったし、渡渉点の前後の道が分かりづらい箇所もあったが、そんなところには必ずミッチェル(道しるべのため樹木に巻き付けるリボンやテープ)が巻いてあった。渡渉点以外でもしつこいほどにミッチェルがつけられているので、明るいうちなら道を外すことはないだろう。降りるうちに晴れてきたよ。カッパも脱いでしまった。途中、何組かの屋久鹿の親子に遭遇した。入山口の駐車場まで降りて弁当を取り、再び沢沿いを登り返し、沢筋で昼食を摂った。
青空が広がる中を宮之浦まで下り、港へ行ってみる。ずいぶん閑散としているなあと思ったら全便欠航の張り紙が出ていた。明日の見通しを聞いてみたが、当たり前のことだがはっきりとしたことは分からない。港の近くの土産物屋に入ってみた。土産は全部買って送ってしまおうと思ったが、お金が足りなかったよ。。・゚・(ノД`)・゚・。。お店のおねいさんに、『船はね〜、まぁ、トッピーが動くのは19日かな〜。フェリーは20日ってところかなぁ。』と言われてちょっと鬱が入った。トッピーとは鹿児島商船が運行するジェットフォイルのこと。ま、荒波に強い高速船のことと思し召せ。この日はこのままホテルに帰って温泉に入ってしまった。夜になって風雨が強くなってくる。
3日目。明け方、風の音で目が覚めた。天気予報を見ると台風10号は九州のど真ん中に居座っている。速度はゆっくりだと。まったく困ったヤツだ。外はまだ強い風が吹いているし、もうどう考えても10時のトッピーは欠航だ。宿を引き払って宮之浦へ向かう。一体何度この道を走っただろう。途中、屋久島空港の前を通ったが、飛行機は普通に飛びそうな勢いだった。航空機の方が荒天に強いのか?
港に着く。待合室に行ってみると、今日はたくさんのお客さんが待っている。だが、10時発の2便、種子島経由鹿児島行きは欠航の掲示が出ている。ただ、3便の鹿児島直行便は運行するらしい。2便がキャンセルになったので5便の種子島経由鹿児島行きにチケットを変更する。幸い屋久島〜種子島間は残席がある。(トッピーは全席指定席だ。)ただし、5便の出発時間は16時20分。あと6時間ほど潰さなければならない。運行するかしないかの決定は14時だとか。
そこでまずレンタカー屋に行って延長をお願いする。種子島のレンタカー屋にも連絡。クルマの延長は難なく終わったが、どこで時間を潰そうか途方に暮れる。とりあえず、志戸子(しとこ)がじゅまる園に行く。何てことはなかった。さらにクルマを北に向け最北端の矢筈岬(やはずみさき)へ向かう。島を周遊する道路から狭い山道に入って走ること数分。キャンプ場が現れる。どん詰まりに駐車場がある。クルマを降りて矢筈岬灯台へ向かった。樹林の間を灯台が見えるところまで行ったときに雨が激しく降り出した。しばらく樹林の中で雨宿りをしていたが、雨が凌ぎきれなくなってクルマまで走って帰った。が、ずぶ濡れ。久しぶりの経験だ。
まだ船に乗るまでにずいぶん時間がある。つぎにドライブイン縄文に行こう、そこで昼食を摂って紀元杉にでも行こうじゃないかと言うことになった。
また、安房(あんぼう)までの道を走る。ドライブインに着いたが食堂は休業だった。仕方なくおにぎりを買って食べる。その後、紀元杉までは急勾配の山岳道路が延々と続く。屋久鹿、屋久猿がそこかしこに見られる。荒川登山口への道を分けると屋久杉ランドまではすぐだ。そこからさらに15分ほど山深く入ったところに紀元杉はひっそりと立っている。標高1,240m。周囲を木道が取り巻いていて歩けるようになっている。この杉も何かが宿っていそうな妖しげな雰囲気が漂っている。相変わらず雨は降り続いている。来た道を引き返して安房、そして宮之浦へ。港に行くとトッピーは通常運行している。で、港にほど近い屋久島環境文化村センターへ行く。大画面の屋久島の自然を紹介する映像がなかなかの出来だ。屋久島に着いたらすぐに見たい映像だ。
クルマを返して港へ。トッピーに乗り込む。アナウンスでは"搭乗"と表現していた。種子島までは通常で所要50分だが、うねりの残る海でスピードを落として航行したため55分かかって西之表(にしのおもて)港に到着した。港にはレンタカー屋のおねいさんが待っていてくれて営業所まで送ってくれる。私たちの他にもう一人お客さんがいたが、わたしたちと同じホテルに宿泊するようだ。クルマはまた旧ヴィッツ。西之表でコンビニによってからホテルに向かったが、このコンビニにはベーカリーが同居していた。しかもお総菜も売っていたりしてちょっと新鮮だった。
この日のお宿は種子島いわさきホテル。地図を見ると、ホテルは島の一番南の端にほど近い。クルマで1時間強の距離。かなり遠い。屋久島でもそうだったがレンタカーに備え付けられているナビゲーションはまるで役に立たないしろもので、ほとんど現在位置の確認くらいしかできない。しかも、1DINオンダッシュのこいつはディスプレイを手で引き出して、手で戻すなんていう素晴らしい機能付きだよ。はっきり言って使えね。従って、今回の旅行は久々ニョーボナビの登場
とあいなった
。こっちの方が数段役に立つ。(時々スタンバイモードになっちゃうけどね。)
中種子(なかたね)の街を抜け、南種子に入る。種子島宇宙センターの発射台を遠くに眺めながらホテルへ。ホテルは海岸戦に立つリゾートホテル。ビーチはプライベートビーチだ。ただし、引き波が強いらしく遊泳禁止となっている。海に入っているのはサーファーばかり。マリンリゾートを強く意識させるホテルだ。
(サーフボードをレンタルしているホテルは始めてだ。)
正直なところ少々安普請。屋久島のいわさきホテルの方が綺麗だった。が、こちらは和洋折衷ではなく純粋にホテルの文法に則った作法を取っていた。廊下は広く天井も高かった。部屋も広く快適。夕食はフルコースのディナー。味に関して不満はなかった。
4日目。今日はもう帰路に就く。予定では昨日は半日以上種子島にいる予定だったが台風の影響で夕方になってやっと島に渡れたために何も見ていない。そして、今日はとある都合で種子島発の1便で島を離れなければならない。それでも門倉岬くらいには行っておこうと朝食前に出かけてきた。ここは種子島の南端。小高い丘状の岬には大航海時代の帆船を摸した展望台が建つ。西の洋上にうっすらと屋久島の影が見える。安房と思しき街が見えている。展望台の傍らに鉄砲伝来を示す碑がある。実際には岬の東側の浜に流れ着いたのではなかろうか。
ホテルに帰って早々に食事。新種子島空港に向かう。今年の春開港したばかりだという新しい空港は中種子町と西之表市の境目付近にある。ジェット化を目論んで2,000m級の滑走路を持つ飛行場を新設したが、現状ではターボプロップ機しか就航していない。鹿児島空港へ向かうものを除けば、あとは大阪伊丹便しか飛んでいない。
飛行場に着くと搭乗手続きにえらく手間取っている。わたしたちは荷物をすべて機内持ち込みにしているので手続きは簡単なんだが、セキュリティーチェックでひっかかった。曰く、荷物の中にハサミがあります、と。ハサミなど持っているはずがないと思ったが、往路には宅配で送ってしまったが、この時は持っていた山用の装備にハサミがあったことを思い出し取り出した。が、面倒なのでその場で廃棄した。
ここも搭乗機までは徒歩でアクセス。ここでもダッシュ8は我々を軽々と大空へと持ち上げた。そして、あっという間に鹿児島空港に運んでくれた。
さて、普通ならここで中部国際行きに乗り換えて一気に名古屋まで帰ってしまうところだが、今回はそうではない。というのも、せっかく鹿児島空港に来ているのなら引退間近のYSー11に乗らない手はないからだ。当然ながら中部国際へは飛んでいない。そこで福岡に向かう便に搭乗する。空港で待つこと30分。案内が流れて搭乗機へと向かう。今度はバスでアクセスだ。バスにはカメラを携えたひとが散見される。先刻のQ400に比べると一回り大きくずんぐりしているが、座席数はこちらの方が少ない。航続距離も巡航速度もQ400が上だ。機内に乗り込む。さすがに古さを隠せないキャビン。シートのあんこは張りを失っているし、テーブルもない。頭上のコールボタンのわきには「スチュワデス」と書かれているのも時代を感じさせる。やがてプロペラが回り、ダートエンジンの金属音と重低音が響いてくる。外からだと金属音が気になる機材なんだが、乗ってしまうとあんまり気にならない。Q400に比べて騒音と振動は大きい。キャビン内の快適性もQ400が上。やはり古さは隠せない。が、何とも言えない落ち着きと味わいがある。旧型の鉄道車輌に通じるものがあるな。
やがてテイクオフ。
ゆっくりと加速しゆるやかに上昇していく
。上昇時に多少揺れたがあまり気にはならなかった。雲の上に出てしまえば安定した飛行。地上が目にはいると、ジェットに比べ低い高度を飛んでいることが分かる。福岡空港への着陸は台風の影響か相当激しく揺れた。滑走路上まで下りてきても主翼が左右にぶれていた。
駐機スポットにホールドされエンジンがカットオフされると機内は急に静かになる。やがてドアが開かれて、われわれはタラップを降りて地上に立った。空港ビルまでは徒歩で向かう。雨が降っていたので地上スタッフがタラップの下で傘を差しだしてくれる。何度か振り返って写真を撮っておいた。名残は惜しいがこれでYSとはお別れだ。
これで当初の目的はすべてコンプリート。博多駅に向かう。駅前の何とか言うラーメン屋でラーメンを食った。結構混んでいた。隣の席では
威勢の良いあんちゃんが「おばちゃん、替え玉。堅メンでね〜。」とか言っている。通だねぇ。
中途半端に時間が空いた。そこで、博多町家ふるさと館へ。タクシーをつかまえて"博多歴史館に"向かったが、運ちゃんはご存じなかった模様。連れて行かれたのは"博多町屋ふるさと館"。これはこれで古の博多の様子(大正年間?)がよく作り込まれていた。結果的にはこれで良かった気がする。入館200円は安い。で、博多駅に戻って新幹線で浜松へ。乗ったのぞみが500系。いや〜、山と乗り物の旅だったなあ(笑)。
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